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東京地方裁判所 平成5年(ワ)16805号 判決 1998年1月30日

原告

株式会社西武百貨店

右代表者代表取締役

米谷浩

原告

株式会社セゾンダイレクトマーケティング

右代表者代表取締役

福田昭彦

右両名訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

富岡英次

田中伸一郎

吉田和彦

被告

東邦物産株式会社

右代表者代表取締役

石田明雄

右訴訟代理人弁護士

小原望

叶智加羅

東谷宏幸

主文

一  被告は、その通信販売及びカタログによる商品販売についての営業に関し、又はその販売若しくは使用するカタログ及びパンフレットに、別紙被告標章目録(一)ないし(一五)記載の各標章並びに「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」とを組合わせた表示を付して使用してはならない。

二  被告は、別紙被告標章目録(一)ないし(一五)記載の各標章を付したカタログ及びパンフレットを頒布してはならない。

三  被告は、別紙被告標章目録(一)ないし(一五)記載の各標章を付したカタログ及びパンフレットを廃棄せよ。

四  被告は、原告株式会社西武百貨店に対し、金四三八万六五七五円及びこれに対する内金三六九万二四一二円については平成五年九月二五日から、内金六九万四一六三円については平成五年一二月三一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告株式会社セゾンダイレクトマーケティングに対し、金三一八万六五七五円及びこれに対する内金二七四万二四一二円については平成五年九月二五日から、内金四四万四一六三円については平成五年一二月三一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

五  原告らのその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

七  本判決は第四項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項ないし第三項同旨

2  被告は、原告株式会社西武百貨店に対し、金三六〇〇万円及びこれに対する平成五年九月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告株式会社セゾンダイレクトマーケティングに対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2、3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告株式会社西武百貨店(以下(原告西武)という。)は、昭和一五年に設立された百貨及び食料品陳列販売業並びにこれに関連する製造業、加工業、卸売業、請負業、賃貸業、輸出入業及び代理業並びにショッピングセンターの経営等を目的とする会社である。

(二) 原告株式会社セゾンダイレクトマーケティング(以下「原告セゾンダイレクト」という。)は、原告西武及びその関連会社である株式会社西友(以下「西友」という。)のそれぞれの通信販売事業を昭和六〇年三月に統合して設置した原告西武の通信販売事業部を昭和六三年に新規事業本部通信販売事業部に組織変更するのに伴い、同年一一月に設立された、各種物品及び右物品に関する製造、加工、賃貸及び輸出入等その目的とする会社である。

その事業の中心は、カタログによる商品販売等の通信販売事業であって、原告西武の新規事業本部通信販売事業部とともに、同社の傘下で、同社の通信販売事業を担っている。

(三) 被告は、資本金三八八〇万円の会社であり、カタログを用いた商品の卸し販売業を営んでいる。

2  原告グループ及び原告商品等表示の周知性

(一) 原告西武を中心とする西友(当時の商号は「株式会社西友ストアー」)ほか六社は、昭和三八年七月から、「西武百貨店・流通資本グループ」と称して密接な事業提携の下で結束するようになり、グループ名称を「西武流通グループ」と変更してグループ傘下の企業を増やし、昭和六〇年にはグループ名称を「西武セゾングループ」に、さらに平成二年七月にはグループ名称を「セゾングループ」に変更して現在に至っている(以下「原告グループ」又は「セゾングループ」という。)。

セゾングループは、原告西武、西友ほか一〇社を構成基幹会社とし、研究所を含むグループ構成企業数がほぼ二〇〇社にのぼる我が国有数の企業グループであるが、構成企業中にはその商号又は名称の中に「セゾン」を含む法人が多数あり、また流通業をはじめ、金融・保険業、外食産業、地域・都市開発、航空事業や製造業、ホテル・サービス・各種文化事業など極めて多岐にわたるグループ構成各社の営業活動において、グループ名である「セゾン」、その欧文字表示「SAISON」さらにはグループについてのいわゆるコーポレート・アイデンティティ(以下「CI」ともいう。)のために特別にデザインされた別紙原告商品等表示(SAIS◎N)目録記載の標章(以下本判決中では、単に「SAIS◎N」と表記する。ただし、被告が用いている標章として「SAIS◎N」というときは、別紙原告商品等表示(SAIS◎N)目録記載の標章の態様に限定されない。)を商品表示及び営業表示として使用している(以下「セゾン」、「SAISON」及び「SAIS◎N」をあわせて「原告商品等表示」という。)。

(二) 原告グループ各社が行う営業活動のうち、カタログによる商品販売及び通信販売に関連する営業に関する代表的なものをあげると、原告セゾンダイレクトは、「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」、「クレジットメーラー」等を利用して通信販売事業を行っており、原告西武は、昭和五八年から、「Petite SAIS◎N(プチ・セゾン)」という小冊子を顧客に送付し、西友は、昭和五八年から、「Petite SAIS◎N」、「クレジットメーラー」という小冊子を顧客に送付して、通信販売を行っている。

右通信販売に用いられる「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」は、昭和六一年一〇月から当初は季刊として現在は年六回発行されている通信販売用カタログであり、その発行部数は、発刊当時は四二万六〇〇〇部、平成元年一〇月一六日発行のものが一〇六万三〇〇〇部、平成二年五月七日発行のものが一三三万部、平成三年五月七日発行のものが一一一万三〇〇〇部である。

また「クレジットメーラー」は、株式会社クレディセゾンを通じてセゾンカード利用者に対して毎月一回請求書に同封して送付される通信販売を目的とする商品毎のカタログ又はパンフレットであり、その発行部数は、昭和六一年一月一九日付けのものが二六万五七二三部、平成二年一二月一九日付けのものが一〇三万七九三三部、平成三年六月一九日付けのものが四六万三〇〇〇部である。

さらに、「Petite SAIS◎N」は、毎月セゾンカードの利用者に、株式会社クレディセゾンを通じて送付しているカタログ兼情報紙であり、その年間発行部数は、平成元年が約一三〇五万部で、以後漸増し、平成五年は約一九九四万部である。

これら通信販売に伴い使用されるカタログ、パンフレット類には、その表紙あるいは郵送に用いられる封筒に「SAIS◎N」の標章が付されており、利用者が原告商品等表示としての「SAIS◎N」を十分認識するようになっている。

なお、「セゾンカード」とは、株式会社クレディセゾン(以下「クレディセゾン」という。)が昭和五八年から原告グループの統一カードとして発行が開始されたクレジットカードであり、その表面には「SAIS◎N」の文字が一際目立つように記載されており、その発行枚数は昭和六二年末で四七五万枚、平成五年三月までに一〇五〇万枚であり、平成五年末でのカードの申込数は一一一九万六二二九枚であって、原告商品等表示を著名にするのに大きく貢献したものの一つである。

(三) セゾングループはその宣伝広告のために莫大な費用を投資しており、たとえば平成二年には三億九一〇〇万円の費用をかけて、毎日新聞及び日本経済新聞等の媒体を利用して原告商品等表示が表示されている六つのCI広告をし、またラジオ放送番組のスポンサーとして二億四〇〇〇万円を支出し、そのほか各種イベントに広告を出稿し、その費用額は合計二四億円にのぼる。またそのほか、昭和五四年から、「セゾンスペシャル」と称するテレビドラマのスポンサーをしており、昭和六三年一一月まで合計二一回制作放送され、その視聴率は、高い回では関西でも二八パーセントを超える場合があった。

(四) 原告グループが、「セゾン」との表示で広く認識されるようになっていることは、原告グループに関する新聞記事において、別紙報道実績一覧表記載のとおり「セゾン」等の表示が原告グループを指すものとして見出し及び本文に関し使用されていることから明らかである。

(五) 「セゾン」を含む営業表示を使用する第三者があっても、いずれも原告らグループの広範な使用と比較すれば、極めて零細な規模の使用にすぎない。第三者の使用の結果、「セゾン」等の営業表示と原告らの営業との関係が薄められて周知性が失われることはない。また喫茶店やレストラン等にいくら「セゾン」という名の店があっても、被告の行為が不正競争行為でなくなるわけではない。

「セゾン」を含む名称を営業表示に使用する第三者には、原告らの著名標章が作り出した高級なイメージ、顧客吸引力に便乗する目的で同様の表示を使用するに至っているものも多いことが予想され、このような事態は、著名標章に関しては、極めてありふれた現象である。このような事情が、原告商品等表示が周知性、著名性を得ていない根拠とすることはできない。

(六) まとめ

以上述べたとおり、原告らをはじめとするセゾングループ各社は、日本全国で、原告商品等表示を使用してカタログ販売等の通信販売事業を含め極めて広範な事業を営んでおり、しかも積極的な広告宣伝活動も加わった結果、原告商品等表示は、後記する被告登録商標が出願された昭和六三年一二月までに、原告グループあるいは原告らをはじめとするセゾングループ各社の商品等表示として日本全国で広く認識されるようになっていたことは明らかである。

3  被告の営業と被告標章

(一) 被告は、①新聞広告等で小売店等の取引先を募集し、応募してきた小売店等にギフトカタログを販売し、②右小売店等が、ギフトカタログを店先等に配置しあるいは顧客方へ持参して顧客に示し、それを見た顧客が右小売店等を通じてカタログ記載の商品を申し込み、その商品が右小売店等を通じて顧客に届けられるという形態の営業を営んでいる。

(二) 被告が頒布しているカタログには、次のとおりの標章が付されている。

(1) 一九九一年(平成三年)度用カタログ

同年度版の総合ギフトカタログ(価格表示一五〇〇円のもの。以下「被告カタログ(一)」という。)には、別紙被告標章目録(一)(以下「被告標章(一)」という。なお、被告標章目録記載の各標章は、以下それぞれ「被告標章(一)ないし(一五)」という。)が表紙の下方に、被告標章(二)が表紙右上方に、被告標章(三)が裏表紙下方に、被告標章(四)が背表紙に、それぞれ記載されている。

同年度版の他のカタログ(以下「被告カタログ(二)」という。)には、被告標章(六)が表紙右上方「BEST SELECTION」という表題の下に、被告標章(七)が表紙左下方に、被告標章(八)が見返し上方「RECOMMENDATORY ADVISE」の下に、被告標章(九)が見返し左下に、被告標章(一〇)が裏表紙に、それぞれ記載されている。

(2) 一九九二年(平成四年)度用カタログ

同年度版の総合ギフトカタログ(以下「被告カタログ(三)」という。)には、被告標章(一一)が表紙上方、裏表紙上方及び裏表紙上方左に、被告標章(一二)が表紙上方と裏表紙上方にそれぞれ記載された右被告標章(一一)の下段にやや小さく、被告標章(一三)が背表紙に、それぞれ記載されている。

(3) 一九九三年(平成五年)度用カタログ

同年度版の総合ギフトカタログ(以下「被告カタログ(四)」という。)には、被告標章(一四)が表紙上方、裏表紙上方及び裏表紙右上に、被告標章(一二)が表紙上方と裏表紙上方の右被告標章(一四)の下段にやや小さく、被告標章(一五)が背表紙に、それぞれ記載されている。

(三) 被告は、日経流通新聞等における被告カタログ及び販売代理店の募集の宣伝広告において、「セゾン」、「ギフトセゾン」等を営業表示として使用している。

4  原告商品等表示と被告標章の類似性

原告商品等表示と被告標章はいずれも類似している。

(一) 被告標章(一)ないし(一〇)は、いずれも、一見して「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」が顕著に示された態様で記載されている。

「セゾン」又は「SAISON」は、未だ日本語として一般的な名詞ということができず、しかも原告らの著名な標章であって極めて高い識別力を有している。

これに対し、「ギフト」又は「GIFT」が小売業において贈答品を意味することは一般消費者あるいは小売業者等商品流通にかかわる者において広く認識され、贈答品用の商品カタログとの関連では商品を普通に表す言葉であり識別性がない。したがって「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」が組み合わされてギフトカタログに表示された場合、「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」の部分のみが消費者ないし需要者の注意を引きつける要部となる。その場合、「ギフト」又は「GIFT」が「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」の前部に付されるのか、後部にされるかは、「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」が要部であることを左右しない。

したがって、被告標章(一)ないし(一〇)は、いずれも原告商品等表示に類似している。

(二) 被告標章(一一)ないし(一五)は、その中の「セゾン」、「SAISON」又は「O」の文字の中央に白抜きのハートが形づくられ右ハートが右斜上から左斜下に矢で射抜かれたようにデザインされた「O」を含む被告標章(一二)の「SAISON」(以下「SAISN」と表示する。)の部分が、「ギフト」又は「GIFT」の部分と区別して示されているわけではない。

しかし、右各標章が付されて使用されている被告カタログ(三)及び被告カタログ(四)がいずれも通信販売業について使用されているギフトカタログであることはその記載から明らかであるから、その標章中、「ギフト」及び「GIFT」部分に顕著性がなく、「セゾン」、「SAISON」又は「SAISN」の部分が要部となることは前述のとおりである。

したがって、被告標章(一〇)ないし(一五)は、いずれも原告商品等表示に類似している。

(三) 原告西武が平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表所定の商品区分第二六類(以下「旧第二六類」という。)を指定商品とする「セゾン」と「SAISON」を二段に横書きしてなる態様の登録第一八一四七五五号の商標権(昭和五八年五月六日出願、昭和六〇年一〇月三一日設定登録、以下「原告登録商標」という。)を有し、また第三者が「ぎふと」、「GIFT」からなる登録第一〇五八三七七号及び登録第一三七二三二九号の登録商標(以下「ぎふと商標」という。)を有していたにもかかわらず、被告が登録出願した別紙被告登録商標目録に示す構成からなり指定商品を旧第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの付属品記載」とする登録第二三五〇一〇八号の商標(昭和六三年一二月二二日出願、平成三年一一月二九日設定登録、以下「被告登録商標」という。)が登録され、右登録標章の連合標章として出願された別紙被告出願商標目録(一)に示す構成からなる商標(平成元年三月九日出願、平成二年一二月二一日出願変更、平成三年二月二六日出願公告決定、以下「被告出願商標(一)」という。)が出願公告されているが、被告登録標章が登録されたのは誤りであり、後記四のとおり右商標登録は無効とされるべきである。

したがって、右事実は被告標章が原告商品等表示に類似しないことを裏付けるものではない。

5  混同のおそれ

(一) 被告の前記3(一)の①の行為においては、被告の販売代理店となるため被告と取引関係に入りカタログを購入する者が、被告が原告グループの関連会社であり、したがって被告発行のカタログが原告グループの関連会社の発行にかかるカタログであるとの誤認混同が生じている。

被告は、日経流通新聞等に、「セゾン」、「ギフト セゾン」等を用いてギフトカタログの購入及び被告の販売代理店となることを勧誘する宣伝広告をしていることから、小売業、百貨店業、カタログによる商品販売業における「セゾン」の著名性に鑑みれば、これを見て被告を原告グループの関係会社と誤認して取引関係にはいる者がいることは疑いがなく、右事情も加わって、原告商品等表示が付された被告発行にかかるカタログは、原告グループの関連会社の発行にかかるカタログであるとの誤認混同が生じる。

被告と取引関係に入る者には、取引業者だけでなく一般の主婦もいることから、被告と代理店関係を結び被告発行にかかるカタログを購入する者が、必ずしも被告の実態をよく知っているとはいえない。

(二) 被告の前記3(一)の②の行為においては、カタログをみて当該カタログに掲載された商品を購入する顧客に、当該カタログに掲載された商品は原告グループの関連会社の取扱いにかかるものであるとの誤認混同が生じる。

すなわち、被告が営んでいる営業形態は、業者が顧客に直接カタログを送付し、顧客が直接業者に商品を注文して商品を送付してもらうという典型的な通信販売とはやや異なるが、顧客が商品の実物を直接確かめて購入するのではなく、カタログを見て注文するという点ではまったく同じである。

顧客にとっては、現物を見ないでカタログによって商品を選定して購入するという点では、被告の営む業態であっても典型的な通信販売であってもカタログ発行主体又は商品の供給主体が誰であるかという点がその購入動機にとって重要な役割を果たしている。

著名な原告商品等表示と、ギフトカタログにおいて識別性のない「ギフト」を組み合わせた被告標章を表紙に大きく記載したカタログを見た顧客が、被告を原告グループの関連会社であると誤認混同して商品を申し込むおそれは極めて大きい。

(三) 被告の被告標章を使用した業務形態は、右(一)、(二)の二側面で異なる誤認混同を生じさせている。

6  営業上の利益の侵害

以上によれば被告が、新聞広告に被告標章を用い、被告標章を付した被告カタログを使用して請求原因3(一)の①、②の行為をすることは、いずれの側面においても不正競争防止法二条一項一号に該当する行為であるから、原告らはこれにより営業上の利益を侵害されるおそれがある。

本訴の経過にかんがみれば、被告は、今後も被告標章(一)ないし(一五)の標章をその発行するカタログに付する等して使用するおそれがあるにとどまらず、さらに「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」を組み合わせた標章を同様に使用するおそれがある。

7  過失

被告は、少なくとも過失により被告標章(一)ないし(一五)をそのカタログに付し前記の不正競争行為を行った。被告は、それらの行為によって原告らが受けた損害を賠償すべき義務がある。

8  損害

(一) 被告カタログの販売による利益

(1) 被告は、被告カタログ(一)を代金一五〇〇円で一〇〇〇〇部、被告カタログ(三)を代金一五〇〇円で五〇〇〇部、被告カタログ(四)を代金一五〇〇円で五〇〇〇部、それぞれ販売し、その販売額の合計は三〇〇〇万円である。

(2) 被告カタログを販売することにより被告が受ける利益率は二〇パーセントであるから、被告は、被告カタログ(一)、(三)及び(四)の販売により、合計六〇〇万円の利益を受けた。

原告西武は、右同額の損害を受けたものと推定される。

(3) 仮に右の主張が認められないとしても、原告商品等表示の著名性を考慮すれば、その使用料率は少なくとも一〇パーセントを下らない。被告の被告カタログ販売により、原告西武が通常受けるべき使用料相当の損害額は三〇〇万円である。

(二) 被告カタログ掲載商品の販売による利益

(1) 被告は、平成三年中は、被告カタログ(一)及び(二)をその営業に用いたが、右両カタログに基づくカタログ掲載商品の販売額は合計一億九八九二万二五七六円である。

(2) 被告は、平成四年中は、被告カタログ(三)及び同内容のカタログをその営業に用いたが、右両カタログに基づくカタログ掲載商品の販売額は合計一億七九一二万〇一〇五円である。

被告カタログ(三)に基づく同カタログ掲載商品の販売額は、少なくとも右の二分の一である八九五六万〇〇五二円である。

(3) 被告は、平成五年中は、被告カタログ(四)及び同内容のカタログをその営業に用いたが、右両カタログに基づくカタログ掲載商品の販売額は、合計一億七七六六万五五五〇円である。

カタログ(四)に基づく同カタログ掲載商品の販売額は、少なくとも右の二分の一である八八八三万二七七五円である。

(4) 被告カタログ(一)ないし(四)に基づく掲載商品の販売額は総額三億七七三一万五四〇三円であるところ、利益率は二〇パーセントであるから、被告は、右商品の販売により少なくとも七五四六万三〇八〇円の利益を受けた。

(5) 原告らは、各自、右金額の二分の一である三七七三万一五四〇円の損害を受けたものと推定される。

(6) 仮に以上の主張が認められないとしても、原告商品等表示の著名性を考慮すれば、その通常の使用料率は少なくとも一〇パーセントを下らない。被告のカタログ掲載商品の販売により、原告各自が通常受けるべき使用料相当の損害額は、前記販売額総額の一〇パーセントのそれぞれ右額の二分の一である一八八六万五七七〇円である。

(三) 弁護士費用

原告らは、被告に対し、前記被告の違法な各行為を中止するよう申し入れたにもかかわらず、被告がこれに応じなかったため、本訴を提起せざるを得なかった。本件訴訟は複雑困難で専門的知識を要するものであるから、弁護士にその追行を依頼する必要があり、そのため支払うべき弁護士費用相当の損害を受けた。右各不法行為と因果関係を有する弁護士費用相当の損害額は、各原告について、いずれも二五〇万円を下ることはない。

9  結語

(一) よって、原告らは、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、

(1) 通信販売及びカタログによる商品販売についての営業に関し、又はその販売若しくは使用するカタログ及びパンフレットに、被告標章(一)ないし(一五)及び「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」とを組み合わせた表示の使用の差止め、

(2) 被告標章(一)ないし(一五)を付したカタログ及びパンフレットの頒布の差止め、

(3) 被告標章(一)ないし(一五)を付したカタログ及びパンフレットの廃棄、

を、

(二) 不正競争防止法二条一項一号、四条に基づき、原告西武に対し、右8(一)に記載した損害金合計金六〇〇万円、同(二)に記載した損害金合計三七七三万一五四〇円の内金二七五〇万円、同(三)に記載した損害金二五〇万円の合計額三六〇〇万円、原告セゾンダイレクトに対し、右8(二)の損害金合計三七七三万一五四〇円の内金二七五〇万円、同(三)の損害金二五〇万円の合計額三〇〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成五年九月二五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを、

それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)(一)、(二)の事実は知らない。同(三)の事実は認める。

2  請求原因2(原告グループ及び原告商品表示等の周知性)(一)ないし(四)の事実は知らない。同(五)(六)の主張は争う。

(一) 一般名詞からなる商品等表示は、それが単独で用いられる場合、消費者がその本来の意味を想起することにより商品等表示とその商品等主体との結びつきが分断されるから識別力が元々低い。このような表示が周知となるには、当該一般名詞から想起される本来の意味を乗り越えて、それが商品等主体と直結し、独自の二次的意義(セカンダリーミーニング)を有する程度に標章とその商品等主体との結びつきが一般消費者らに高度に周知となっていなければならない。

ところで原告商品等表示である「SAISON」は、フランス語の「四季」ないし「季節」を意味する名詞であり、「セゾン」は、「SAISON」の発音を片仮名表記にしたものである。英語の「シーズン」ないし「SEASON」と相対的な違いがあるとしても、フランス語の「セゾン」ないし「SAISON」は「季節」ないしは「四季」を意味する単語としては良く知られている一般名詞にすぎない。

したがって原告商品等表示は、識別力のもともと弱い表示であるから、原告らが主張するように当該表示を大々的に使用してきた結果、商品等表示としての識別力が獲得されたとしても、未だ周知性を獲得するには至っていない。

(二) 原告グループが「セゾングループ」なる表示を正式に用いはじめた平成二年七月よりも以前から「セゾン」又は「SAISON」の表示を営業表示中に用いている第三者が全国に多数存在する。

とりわけ、新潟県長岡市に本店のある越後ステーション開発株式会社及びその子会社であるセゾン商事株式会社は、地元の一般住民から公募して、その経営するJR長岡駅ビルの名称を「セゾン・ド・長岡」、新潟駅ビルの名称「セゾン・ド・新潟」とし、加えて「セゾンカルト」という名称のクレジットカード、「セゾン」が大きく書かれたギフトカードを発行するなどして、すでに一〇年以上前から「セゾン」を含む営業表示を大々的に使用している。

このように「セゾン」又は「SAISON」を含む営業表示を使用する第三者が多数存在するから、原告商品等表示に営業表示としての識別力ないし顧客吸引力があるとしても、その営業表示としての識別力、顧客吸引力は、原告ら及び第三者を含む多数の使用者に分散し、その識別力、顧客吸引力は希薄なものになる。

第三者が原告らと異業種であっても、これらの事情はあてはまるし、またこのことは広義の混同が発生する可能性が低い理由ともなる。

また「セゾン」又は「SAISON」を営業表示中に使用する企業等が、この時期に増加したのは、企業がいわゆるコーポレート・アイデンティティの重要性を認識し企業のイメージアップを図ろうとして、営業表示あるいは商号中に古臭いイメージのある英語に代えフランス語やイタリア語などの外国語を用いるのが一種の流行となり、そのため営業表示あるいは商号中に用いる「四季」ないし「季節」を表す言葉として、英語の「シーズン」ないし「SEASON」ではなくフランス語の「セゾン」ないし「SAISON」が好まれるようになったからである。原告グループが「西武セゾングループ」と称するようになったこととは関係ない。

これらの事実は、「セゾン」ないし「SAISON」が、誰でも思いつくありふれた標章にすぎないことを示している。

(三) 原告グループが正式名称として「セゾングループ」という表示を使い始めた平成二年七月以降、新聞紙上等で、原告グループが「西武セゾングループ」ではなく単に「セゾングループ」と紹介されるようになったとしても、「セゾン」の表示は、単なる一般名詞ではなく商品等主体を示す表示であることがわかるように「グループ」という単語と結び付け「セゾングループ」と表示されている。このような用い方をされて初めて「セゾン」の表示が本来もつ一般名詞としての意味の想起が打ち消されて営業主体との結びつきを認識しうることになるにすぎない。「西武」と切り離された「セゾン」が原告グループの商品等表示として周知となっていることを示すものではない。

(四) 一般名詞からなる商品等表示が高度に周知となっていない場合には、当該一般名詞の本来の意味の想起を打ち消し、当該標章とその商品等主体とを結び付けさせるための媒介、たとえば当該一般名詞が別の周知標章を媒介としてこれと結び付けて、あるいは関連付けて使用されたり、当該一般名詞がその商品等主体の表示であることを想起させるような文脈のもとで使われるなどして初めて一般消費者は当該商品等表示からその商品等主体を認識し得るに至る。

消費者は、原告商品等表示のみで原告グループを認識しているのではなく、原告商品等表示が「西武」又は「SEIBU」を伴って用いられることにより、「西武」又は「SEIBU」という別の周知標章を媒介として原告らが商品等主体であることを認識している。すなわち、消費者は「西武」又は「SEIBU」の表示のもつ周知性に基づいて原告商品等表示を原告らの営業と認識しているにすぎないのであり、原告商品等表示の周知性により原告らを商品等主体と認識しているのではない。

原告らの、原告商品等表示が周知であるとの主張は、すべて「西武」又は「SEIBU」について生じている周知性を原告商品等表示の周知性とすりかえて主張しているものであり失当である。

3  請求原因3(被告の営業と被告標章)について

同(一)、(二)の事実は認める。

同(三)の事実は否認する。被告の営業表示はあくまでその商号である「東邦物産株式会社」である。

4  請求原因4(原告商品等表示と被告標章の類似性)はすべて争う。

(一) 原告らの主張は、被告の標章の一部である「セゾン」又は「SAISON」のみを取り出して、これを原告商品等表示と形式的に比較して類似していると主張しているにすぎないものであり失当である。

(二) 商品等表示の類似性は、標章の具体的な使用状況、商品等主体の具体的な業態、標章自体の持つ識別力その他取引実情の差異を総合的に考慮して判断されるべきである。

原告商品等表示は、ありふれたフランス語の一般名詞を独立して使用しているもので、標章自体には商品等表示としての識別力は存在しない。

これに対し被告標章は、「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」が合わさって使用され、全体として「ギフトセゾン」、「GIFT SAISON」又は「GIFT SAIS◎N」という一つの標章を形成し、全体の語感において、また、表示そのもののイメージにおいても独自の標章としての識別力を有している。

したがって、原告商品等表示と被告標章は、その識別力の違いにおいても、また、単なる一般名詞を単独で使用しているか、別の語句と合わさって全体として特別な標章としての独自性を有しているかと言う点においても大きな差異があり、類似しているとはいえない。

(三) またギフトカタログであることを普通に示す語として「ギフト」が用いられる場合、「〜ギフト」や「〜ギフトカタログ」などのように「ギフト」ないし「ギフトカタログ」を後に付して用いられていることが一般的であるが、被告標章は「ギフト セゾン」、「GIFT SAISON」のように「ギフト」又は「GIFT」を「セゾン」又は「SAISON」の前に付して一体として使われている。

この点で、単にギフトカタログ、贈答品カタログという物の普通の名称を示すために付される「ギフト」又は「GIFT」の表示とは明らかに異なった特徴を有し、被告カタログ独自の名称としての機能を営んでいる。

(四) 被告標章が、原告商品等表示と類似していないことは、被告が「ギフトセゾン」に関して商標権を有していることから明らかである。

すなわち、被告は被告登録商標を有しているとともに、右登録商標の連合商標として、被告出願商標(一)を出願し、右商標は既に出願公告されており、また別紙出願商標目録(二)に示す構成からなる商標(平成四年一一月二一日出願、以下「被告出願商標(二)」)を出願中であるが、右商標も、被告出願商標(一)とともにいずれ近い将来登録される見込みである。

ところが、被告が、被告登録商標を出願した当時、既に同じ旧第二六類に原告西武が「SAIS◎N」と「セゾン」を二段書きにして横書きしてなる原告登録商標を有し、また第三者が「ぎふと」、「GIFT」からなるギフト商標を有していた。

被告登録商標が、このように「SAIS◎N/セゾン」あるいは「ぎふと」、「ギフト」の登録商標の存在にかかわらず登録されるに至っているということは、審査官が、被告標章の要部が「ギフト」にも「セゾン」にもあるのではなく、「ギフト」と「セゾン」とが合わさることによって独自の観念を示すに至っていると判断したことを意味する。また、被告登録商標が、原告登録商標に類似しないとの判断は、被告登録商標について原告西武がした無効審判請求事件の判断でも維持されている。

5  請求原因5(混同のおそれ)の主張は争う。

原告商品等表示に識別力、周知性はなく、また被告標章と類似していないから、被告がそのカタログに「セゾン」又は「SAISON」を含む被告標章を使用しても、その商品等主体が原告らであるとの誤認混同が生じることはない。

被告の営業は、あくまでカタログを利用した商品の卸業であって、取引先である小売店が商品を在庫として置いておく代わりにカタログを利用するという形態をとっているものである。これに対し、原告らの業態、とりわけカタログを利用した営業の形態は正にカタログを掲載した商品の一般消費者への通信販売であり、明らかに異なっている。

カタログを用いた商品の卸販売取引が新聞広告を契機として開始されるとしても、実際に取引に入る場合には、商品取引基本契約を締結したうえで取引が開始されるのであり、被告は一般消費者、需要者と右のような取引契約の締結に至ることも、カタログを発送することもない。新聞広告には、被告の業態が「総合卸」であることが明記されているから、一般の消費者が、被告の広告を見て、カタログを注文し、さらには、カタログを見て商品を被告に注文することもあり得ないし、新聞広告をみた一般消費者、需要者が被告に対しカタログの注文や資料請求をしたとしても、被告のカタログは小売業者向けのもので個人の消費者を対象としたものではない旨を文書で説明して、これらの者と取引に至ることはない。

このように被告の業態と原告の業態が全く異なる以上、消費者、需要者が両者の商品、営業を誤認混同することはない。

6  請求原因6(営業上の利益の侵害)の主張は争う。

被告は、一九九四年(平成六年)度版以降のカタログには別紙被告標章目録のいずれの標章も使用していないし将来的にもその意思はない。

被告は、被告登録商標を有し、被告出願商標(一)、(二)の商標を出願中であるが、「GIFT」と「セゾン」の組み合わせを含む標章(被告標章(一)、(三)、(六)、(九)、(一〇))あるいは「SAISON」の「O」の文字「◎」となっている標章を含む標章(被告標章(六)、(七)、(八)、(一〇))については一切商標登録出願をしていない。被告がその標章を使用する意思がないことは明らかである。

したがって、少なくとも被告標章(一)、(三)、(六)ないし(一〇)については、原告商品等表示との類似性や誤認混同の有無の検討をするまでもなく、もはや原告らに右各標章の差止めを求める利益はない。

7  請求原因7(過失)の事実は否認する。

被告は、被告標章の使用開始にあたり、弁理士をして、被告登録商標が登録可能であるか否かを調査し、類似商標が存在せず商標として登録が可能であることを確かめたうえ、被告登録商標を商標登録出願をするとともに、その営業に用いるカタログに被告標章を付して使用を始め、順次、被告出願商標(一)、(二)についても商標登録出願をした。

被告が出願した商標は、前記したとおり被告登録商標については既に登録され、被告出願商標(一)については出願公告がされている。

原告商品等表示に周知性がないことは前記のとおりであるが、被告は、決して原告商品等表示の周知性にフリーライドすることを意図して、被告標章の使用をしていたものではない。

8  請求原因8(損害)について

(一) 同8(一)(1)のうち、被告カタログ(一)、(三)及び(四)の販売部数は認め、販売価額は否認する。

同8(一)(2)は否認する。

同8(一)(3)は争う。

(二) 同8(二)(1)ないし(3)は認める。

同8(二)(4)のうち、被告カタログ(一)ないし(四)に基づくカタログ掲載商品の売上高の総額が三億七七三一万五四〇三円であることは認め、その余は否認する。

同8(二)(5)、(6)は争う。

同8(三)は争う。

9  請求原因9は争う。

三  抗弁

1  商標権の行使又はそれに準ずるものとしての被告標章(二)、(四)、(五)、(一一)、(一三)ないし(一五)の使用行為

(一) 被告は被告登録商標を有するとともに、被告登録商標の連合商標として被告出願商標(一)、(二)を出願中である。

被告出願商標(一)は既に出願公告されており、被告出願商標(二)とともに間もなく登録される見込みである。

(二)(1) 被告が、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)をカタログに付して使用する行為は、商標法二条三項一号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」にあたり、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を、右標章が付されたカタログに関する新聞広告において使用する行為は、同法二条三項七号の「商品……に関する広告……に標章を付して展示し、又は頒布する行為」にあたる。

(2) 被告標章(一四)は被告登録商標と全く同一の標章である。

被告標章(一五)は被告登録商標を縦書に表記したもの、被告標章(一一)は被告登録商標の「ギフト」と「セゾン」の間に僅かの間隔の開けたもの、被告標章(一三)は被告標章(一一)を縦書に表記したもの、被告標章(四)は字体が異なるもので被告登録商標を縦書に表記したものであるが、被告標章(四)、(一一)、(一三)、(一五)は、いずれも被告登録商標と社会通念上同一性がある。

(3) したがって、被告が、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を前記の態様で使用する行為は、被告登録商標に基づく権利を行使する行為である。

(三)(1) 被告が、被告標章(二)、(五)、(一二)を前記のとおり使用する行為は、右(二)同様に商標を使用する行為にあたる。

(2) 被告標章(二)及び(五)の標章は、被告出願商標(一)と同一または社会通念上同一性があり、被告標章(一二)の標章は、被告出願商標(二)と同一または社会通念上同一性がある。

(3) 被告出願商標(一)、(二)は被告登録商標の連合商標として出願され、被告出願商標(一)は既に出願公告済みであり、被告出願商標(二)とともに間もなく登録される見込みにあるから、被告が、被告標章(二)、(五)、(一二)を前記の態様で使用する行為は、被告登録商標に基づく権利を行使する行為に準じた行為というべきである。

(四) 平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法(以下「旧法」といい、現行の不正競争防止法を「新法」ともいう。)六条は「第一条第一項第一号及第二号……第一条ノ二第一項……ノ規定ハ……商標法ノ規定ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為ニハ之ヲ適用セズ」と規定して、現行の不正競争防止法二条一項一号に相当する旧法一条一項一号、二号に該当して不正競争とされる行為であっても、それが商標権の行使と認められる限り旧法の規定を適用しないこととして、商標権の行使であることを不正競争を理由とする請求に対する抗弁として位置づけていた。

現行の不正競争防止法には、商標権の行使となる行為が、不正競争とならない旨を明示した規定はないが、平成五年法律第四七号附則二条(以下、「改正法附則二条」という。)は、「改正後の不正競争防止法……の規定は、……この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、改正前の不正競争防止法……によって生じた効力を妨げない。」と規定し、旧法の規定により生じた効力が、法改正によって妨げられない旨を規定している。

旧法六条により、不正競争防止法の規定が適用がないとされていた効力は、旧法によって生じた効力であると解するのが文理にかなった素直な解釈であり、また、そのように解することが既得権の保護という改正法附則二条の趣旨にもそうものであるから、旧法当時に開始された商標権使用行為には、旧法六条の適用があり、不正競争防止法は適用されない。

したがって、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を使用する行為には不正競争防止法は適用されない。

被告標章(二)、(五)、(一二)を使用する行為は、商標権の行使に準じた行為として旧法六条の規定が類推適用されるべきであるから、右行為にも不正競争防止法は適用されない。

2  不正競争防止法五条一項の推定を覆す事実

(一) カタログを用いてする商品販売により被告が受ける利益は、カタログそのものによりもたらされるのではなくカタログに掲載された商品の販売によりもたらされるものである。しかも、カタログに掲載された商品は被告とも原告らとも全く関係のない著名なメーカーの商品であって、商品そのものに被告標章が使用されているのではない。

(二) 被告は、得意先小売店の要望に応じるため、掲載されている商品の内容が全く同じで表紙のみが異なる数種類のカタログを同年度版として制作し販売しているが、被告カタログが特に同年度の他の種類の表紙のカタログに比べて売上がよいということはない。

被告は、平成六年度以降のカタログには、いずれの被告標章も使用していないが、平成六年度以降のカタログによる売上はそれ以前よりむしろのびている。

被告のカタログを用いた営業による売上は、カタログの表紙に付された標章とは全く無関係に推移しているのであるから、被告が被告カタログを用いなかったとしても、右期間に同実績の売上をあげていたと考えられるし、同期間中に原告らの売上が減少したとしてもそれは景気動向等、他の要因に起因するものである。被告が被告カタログを使用して営業を行ったこととは関係ない。

したがって、被告が被告カタログを用いて商品の販売をしたことにより、原告らに得べかりし利益の喪失をもたらしたという関係にないことは明らかであるから、被告が被告カタログを用いて商品を販売することにより受けた利益が原告らの損害であるとの推定は成り立たない。

四  抗弁に対する認否及び反論

1(一)  抗弁1(一)中、被告が被告登録商標を有し、被告登録商標の連合商標として被告出願商標(一)、(二)を出願中であり、被告出願商標(一)が既に出願公告されていることは認めるが、その余は争う。

(二)  同1(二)、(三)の主張は否認する。

被告出願商標(一)、(二)に基づく商標権の行使はあり得ない。

被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)が被告登録商標と社会的同一性があるとしても、被告の被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)の使用態様は、商標権行使の範囲を越えている。すなわち、被告カタログは、小売店等に販売された後、消費者がそれを見て商品を注文するために用いるから、被告標章は、商品の供給者である被告を表す営業表示として機能している。このような使用態様は商標権の行使にはあたらない。また新聞広告に被告標章を付することは、商標法が定義する商標の使用にあたらない。

(三)  同1(四)は争う。

被告カタログに被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を付する行為が、形式上、商標権の行使であるとしても、不正競争防止法に基づく請求に対する抗弁とならない。

被告が根拠とする旧法六条に相当する規定は現行法では設けられず、実質、削除されている。

改正法附則二条の「改正前の不正競争防止法上生じた効力」とは、「判決、契約、債務等の法律上の効力」であり、判決はともかく私人の行為については、旧法下でなされた法律行為の法律効果が、新法によって否定されないという趣旨である。そして、それ以外の既得権の保護は、別に改正法附則各条によって実現されることが意図されている。

すなわち、新法において実質的に削除された他の規定について見ると、旧法四条四項の適用除外については、改正法附則八条により、「新法第九条の規定は、この法律の施行の際現に旧法第四条第四項に規定する許可を受けている者については、適用しない。」とされている。旧法四条四項は、旧法六条の場合と同様に、適用除外規定が新法によって削除されたものであるが、その既得権の保護については明示的に規定されている。

また、改正法附則の他の規定を見ても、例えば、新しく規定された新法一〇条については、改正法附則の九条により、「新法第十条の規定は、この法律の施行前に開始した同条に規定する国際機関類似標章(……)を商標として使用……する行為に該当するものを継続する行為については、適用しない。」と新法の施行前の行為を継続する行為については、新法施行後も適法とされることが明示されている。

このほか、旧法三条(外国人の権利能力)の削除については、改正法附則一一条で、「この法律の施行前にした行為に関する旧法第三条に規定する外国人が行う同条に規定する請求については、なお従前の例による。」とされており、法律の施行前と後の行為で明確に法律の適用が異なることが明示されている。

このように見てくると、旧法六条の抗弁の効果は、旧法下でなされた法律行為の法律効果が問題となっているわけではないから、「旧法によって生じた効力」と見るべきではないし、他方、改正法附則に特別な規定が置かれていないから、改正法附則二条の但書の適用はなく、旧法六条の抗弁は、遡って成立しないと解すべきである。

また実質的にみても、新法が工業所有権の行使の規定を一切設けなかったのは、新法がこのような抗弁を一切認めないことを宣明したと見るべきであることに加え、旧法下で濫用事例が多く、法理論的にも批判され、制度の国際的ハーモナイゼーションの観点からも削除の要請が大きかったことから、旧法六条が削除されたことに鑑みれば、新法は旧法六条の抗弁について完全に否定的な態度を採っているものと解される。

したがって、法改正前の行為であっても旧法六条の適用を除外するのが不正競争防止法の趣旨であるから、旧法下の行為を継続する行為にも、旧法六条が適用されることはない。

旧法六条の適用を前提として商標権の行使を不正競争防止法に基づく請求に対する抗弁とする被告主張は失当である。

2  抗弁2は否認する。

仮に被告発行にかかるカタログに基づくカタログ掲載商品販売の実績が被告主張のとおりであるとしても、被告の主張立証をもっては、不正競争防止法五条一項の推定は覆滅されない。

すなわちカタログによる商品販売では、実際に商品を見て買うわけではないから、特に被告カタログのようにカタログ掲載商品の一部ないし全部が有名ブランド品でないような場合には、消費者は、商品のブランドのみならずカタログ供給業者兼商品供給業者がどのような業者であるかに関心をもち、当該カタログに付された表示に極めて敏感となる。現在、各百貨店の多くが自社の店名の著名性を武器にして熱心にカタログによる商品販売を営んでいるのは、広く知られた事実である。

これを前提にして考えれば、著名な原告商品等表示を含む「ギフトセゾン」なるカタログ名が、カタログによる商品販売において、強い顧客吸引力を有しているのは明らかである。被告標章の使用を中止したという平成六年以降にあって、売上が伸びたという事実があるとしたら、それは、カタログ販売の普及、景気の回復その他の要因によるものである。

五  再抗弁(権利の濫用)

1  被告登録商標は、以下のとおり無効事由及び取消事由を有し、いずれ無効とされるか取り消されることが確実である。

(一) 被告登録商標は、次の条項に該当する無効事由を有する。

(1) 被告登録商標は、原告らセゾングループの著名な略称であるところの「セゾン」を含んでいる(商標法四条一項八号)。

(2) 被告登録商標は、原告らの業務にかかる商品を表示するものとして需要者に広く認識されている商標(「セゾン」)と類似するものであって、その商品(印刷物)と類似する商品に使用するものである(商標法四条一項一〇号)。

(3) 被告登録商標は、先願である原告西武が有する第七六八八四七号、第一三九三三七五号、第一四二二三四九号、第一八一四七五五号の商標と類似する(商標法四条一項一一号)。

(4) 被告登録商標は、原告らの業務にかかる商品と混同を生ずるおそれがある(商標法四条一項一五号)。

(二) 「SAISON」、「SAIS◎N」等は、原告西武の登録商標であり、かつ、原告らのセゾングループの商品又は営業を表示するものとして著名であるところ、被告は、被告の登録商標を被告標章(一)から(一五)の態様で、ギフトカタログに使用した。したがって、被告が故意に、指定商品について、原告の登録商標に類似する標章を使用したことによって、原告ら、さらにはセゾングループ各社の業務にかかる商品と混同を生じるおそれがある。

したがって被告登録商標は、商標法五一条一項の規定により登録を取り消されなければならない。

2  右のような瑕疵を有する被告登録商標に基づいてする被告標章の使用行為は、原告らの商品又は営業と混同を生じさせる結果を招来し、特に小売業、通信販売業及びカタログによる商品販売業において著名な原告商品等表示のイメージを僭用し、その信用力、顧客吸引力に只乗りをする行為であって公正な競業秩序を乱すものであるから、商標権の適法な権利行使とはいえず、その権利を濫用するものである。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1  再抗弁1の事実は否認する。

被告登録商標には、原告主張のような無効事由、取消事由はない。原告西武が申し立てていた被告登録商標に対する無効審判請求は、既に特許庁において理由がないものとの判断がされている。右審決は確定していないものの、その判断は尊重されるべきである。したがって被告標章を使用する行為は、被告登録商標に基づく適法な権利行使である。

2  再抗弁2の主張は争う。

被告標章の使用行為が公正な競業秩序を乱すという原告らの主張は、単に原告らの本件差止請求ないし損害賠償請求が不正競争防止法の要件を満たすという請求原因事実に関する主張を繰り返しているにすぎない。被告登録商標に基づく権利の行使が権利濫用にあたるとの主張の根拠とはなり得ない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(当事者)について

弁論の全趣旨によれば、請求原因1(一)及び(二)の事実が認められる。同1(三)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(原告グループ及び原告商品等表示の周知性)について

1  <証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告西武を中心として、西友、西武産業株式会社、株式会社マンロー商会、西武青果綜合食品株式会社、西武自動車販売株式会社、朝日ヘリコプター株式会社、東洋航空事業株式会社は、昭和三八年七月から、グループ名称を「西武百貨店・流通資本グループ」と称して密接な事業提携の下で結束するようになり、その後グループ名称を「西武流通グループ」と変更してグループ傘下の企業を増やし、昭和六〇年にグループ名称を「西武セゾングループ」に、さらに平成二年七月にグループ名称を「セゾングループ」と変更して現在に至っている。

セゾングループは、現在、原告西武、西友、株式会社パルコ、株式会社ファミリーマート、セゾン生命保険株式会社、株式会社クレディセゾン、株式会社西洋環境開発、朝日工業株式会社、株式会社西洋フードシステムズ、朝日航洋株式会社、株式会社大沢商会及びインターコンチネンタルホテルズコーポレーションの一二社を構成基幹会社とする、研究所を含むグループ構成企業数がほぼ二〇〇社にのぼる企業グループであるが、その事業活動は、流通業をはじめ、金融・保険業、外食産業、地域・都市開発、航空事業や製造業、ホテル・サービス・各種文化事業など多岐にわたっている。

原告グループの売上は、昭和五七年度が約二兆〇三三〇億円、平成元年度が約四兆三〇〇〇億円(金融業を除く。)である。

(二)  原告グループのうち、その商号又は名称の中に「セゾン」を含む法人には、原告セゾンダイレクトのほか、株式会社クレディセゾン、株式会社セゾンバークレイズファイナンス、株式会社セゾンファンデックス、セゾン生命保険株式会社、株式会社シネセゾン、株式会社西武セゾンインターナショナル、株式会社セゾンコーポレーション、財団法人セゾン文化財団、財団法人セゾン現代美術館、株式会社セゾン劇場などがある。

(三)  原告グループ各社は、いずれもその営業活動において原告商品等表示を使用しているが、原告グループ各社の営業のうち、原告商品等表示の使用の顕著なもの、あるいは被告の営業に類似したカタログによる商品販売及び通信販売に関連する営業のうち主要なものは次のとおりである。

(1) 「セゾンカード」について

株式会社クレディセゾン(以下「クレディセゾン」という。)は「セゾンカード」と称するクレジットカードを発行してクレジット事業を行っている。

「セゾンカード」は、昭和五八年、セゾングループの統一カードとして発行が開始されたクレジットカードであるが、その表面には、「セゾンカード」の文字が表面上段に横書きで小さく書かれているほか「SAIS◎N」の原告商品等表示が一際目立つように大きく記載されている。その発行残数は、昭和六二年末で四七五万枚、平成五年三月末で一〇五〇万枚、平成五年末時点でのカードの申込数は、全国で一一一九万余枚に及んでいる。

クレディセゾンは、セゾンカード利用者に毎月利用明細書のほか、「Petite SAIS◎N(プチ・セゾン)」と称するカタログ兼情報紙である小冊子を同封して送付し、これにより後記する原告グループ各社の通信販売事業の広告活動を行っている。

「Petite SAIS◎N」は、「Petite」の部分を小さく「SAIS◎N」の部分を大きく横書きし、「Petite」の下段には線を引いて「プチ・セゾン」と小さく記載されている。またその記事中では「《セゾン》カード」として「セゾン」を強調した記載がされている。その年間発行部数は、原告西武、クレディセゾン、西友の三社の発行分を合計すると、平成元年が約一三〇四万部で、以後漸増し、平成五年は約一九九四万部である。

(2) 原告らによる通信販売事業

原告セゾンダイレクトは、「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」、「クレジットメーラー」を顧客に送付し、又は新聞等の刊行物に商品の広告を掲載して注文を受けるという形態の通信販売を行っている。

原告西武及び西友は、昭和五八年ころから、セゾンカードの利用者に前記「Petite SAIS◎N」をクレディセゾンを通して送付して通信販売を行っており、西友はそのほかセゾンカードの利用者にクレディセゾンを通して「クレジットメーラー」を送付して通信販売を行っている。

右の「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」は、新聞、テレビの商品広告をみて申し込みをした顧客や原告セゾンダイレクトの固定客にその購入実績を見ながら送付される通信販売用のカタログであり、昭和六一年一〇月から、当初は季刊として、現在は、年六回発行されている。カタログ表紙の上段には大きく「快適生活大研究」と記載され、右下隅に「SAIS◎N」、「セゾン」、「暮らしのオンライン」を三段横書きして方形で囲んで一体とした標章(「セゾン」は小さな字である。)が記載されている。その発行部数は、発刊当時は、四二万六〇〇〇部(昭和六一年一〇月一九日発刊)であり、その後平成元年一〇月一六日発行のものが一〇六万三〇〇〇部、平成二年五月七日発行のものが一三三万部、平成三年五月七日発行のものは一一一万三〇〇〇部である。

「クレジットメーラー」は、クレディセゾンを通じてセゾンカード利用者に対して毎月一回請求書に同封して送付される通信販売を目的とする商品ごとのカタログないしパンフレットである。発行部数は、原告セゾンダイレクトと西友の分とあわせて昭和六一年一月一九日付けのもので約二六万部、昭和六三年一二月一九日付けのもので約四六万部、平成二年一二月一九日付けのもので約一〇三万部、平成三年六月一九日付けのもので約四六万部である。

「クレジットメーラー」の同封カタログには、前記した「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」の表紙右下に記載されていると同じ態様の「SAIS◎N」、「セゾン」、「暮らしのオンライン」が三段に横書きされた標章が付されている。

(3) 「チケット・セゾン」について

株式会社エス・エス・コミュニケーションズは、「チケット・セゾン」の営業表示のもとに、各種チケットの販売を行っている。

同社は、その発行する雑誌を中心として、多数の雑誌にチケット・セゾンの広告を掲載しており、その際には「TICKET」、「チケット・セゾン」、「SAIS◎N」を三段横書きして方形で囲んで一体とした標章(「チケット・セゾン」は小さな字である。)が使用されている。また、昭和五九年一〇月より現在に至るまで、毎週土曜日の朝日新聞東京本社版第一社会面全二段を固定欄として用いてその宣伝広告をしている。

また、同社は、チケット・セゾンでチケットを予約するための雑誌として、昭和五九年に、「PRESS」という雑誌を発刊し、平成五年にその名称を、「tj」と変更したが、いずれの雑誌の裏表紙には前記した「TICKET、チケット・セゾン、SAIS◎N」の標章が使われている。その発行部数は、昭和六三年六月一七日発行のものが三万五八五〇部、平成三年六月二一日発行のものが八万四六〇〇部、平成六年四月一五日発行のものが一三万〇五〇〇部である。

(4) その他の印刷物における原告商品等表示の使用

株式会社ファミリィ西武は、「MONTHLY INDEX/SAIS◎NCLUB」と称する情報誌兼カタログを企画編集し、株式会社ビジネスインデックス社が、昭和六三年三月以来、同雑誌を発行している。

同雑誌中には「SAIS◎N CLUB」、「セゾンクラブ」の標章が用いられている。その発行部数は、平成三年ころで毎月約四三万部であり、「セゾンクラブ」の会員数は、平成二年度末現在で五二万人弱である。

(四)(1)  原告グループは、昭和六〇年から年数回東京、大阪の駅や原告グループの拠点地区で約五〇〇〇枚のポスターを掲示し、毎日新聞、日本経済新聞の各全国版朝刊に年数回一五段の広告を掲載して、グループとしてのCI広告を行い、昭和六〇年から平成元年初めまでは、その下隅又は上隅に「SAIS◎N」の標章を付してさらにその下段に「西武セゾングループ」と小さく記載していたが、平成元年七月のポスターは、「セゾングループ」とのみ記載し、その後「SAIS◎N」の標章の下段に「セゾングループ」と小さく記載するようになった。

原告グループの右CI広告のため支出額は、昭和六一年度で約三億三四〇〇万円、昭和六二年度で約三億一九〇〇万円、昭和六三年度で三億六二〇〇万円、平成元年度で三億九七〇〇万円、平成二年度で三億九一〇〇万円であった。

(2) また原告グループは、「セゾンスペシャル」という副題で、ほぼ全国で放送されるテレビドラマのシリーズを提供しており、右シリーズは、昭和五四年四月六日放送の「あめゆきさん」から昭和六三年一一月一一日放送の「桂華學女小夜曲〜スクールガール・セレナーデ」まで約一〇年にわたり二一作品に及んでいる。

同番組においては、コマーシャルタイムに「この番組は西武百貨店、西友、西武クレジットでおなじみの西武セゾングループがお送りいたしました。」と放送されるなど、原告グループ(当時の名称は「西武セゾングループ」)の提供であることが明らかにされ、「セゾンスペシャル」という文字が画面上に現われる。

また同番組の事前宣伝として、第二一回目の放送の際には、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、東京新聞、聖教新聞等に新聞広告がされ、日本テレビ(一五秒のもの七五本)及び読売テレビ(一五秒のもの五一本)等でテレビスポットが流され、毎日新聞、テレビライフ、スポーツニッポン、産経新聞等多数の媒体で、ドラマの内容紹介がされており、他の回についても同様の宣伝がされている。

右シリーズの各番組の視聴率は、関東及び関西でほとんどの場合一〇パーセント以上、高いときには関西で28.7パーセントを記録した。

(五)  原告グループに関する新聞記事において、「セゾン」等の表示が、見出し及び本文に関し別紙報道実績一覧表記載のとおり使用されている。

2 原告グループが我が国有数の企業グループであり流通分野を中心として昭和六三年以前から広範な営業活動を行っていることは当裁判所に顕著な事実であり、右事実に前記1認定の諸事実を総合すると、原告商品等表示は、いずれも被告が被告登録商標を出願した昭和六三年一二月までには、取引者はもとより一般消費者間でも広く認識されており、その周知性の程度はその後もさらに深まっていたものと認められる。

なお前記認定事実によれば、原告グループは、昭和六三年当時、「西武セゾングループ」と称されており、原告グループないし原告グループ各社が取り扱う商品ないし営業がその営業上「セゾン」と略称される例は認められないが、ある標章が商品等表示として広く認識されているというためには、その標章に接した者が特定の商品主体、営業主体を想起するような状態に至っていれば足りるというべきところ、原告グループ中には、原告セゾンダイレクトをはじめとして「セゾン」を名称に含む法人が多数あり、特に一般公衆が利用する美術館、劇場として財団法人セゾン現代美術館、株式会社セゾン劇場があること、原告グループのクレジットカードとして「セゾンカード」と称され「SAIS◎N」が大きく記載されたクレジットカードが多数発行され利用されていること、原告グループ各社の発行にかかる「快適生活大研究〔セゾン〕暮らしのオンラインカタログ」、「Pettie SAIS◎N」等のカタログ類はいずれも「セゾン」との呼称がその要部として共通していること、株式会社エス・エス・コミュニケーションズは「チケット・セゾン」の営業表示でコンサートチケット等の通信販売を広範囲に行っていることなどの「セゾン」を含む標章の使用例の事実を総合すると、消費者が「SAIS◎N」のみならず、「セゾン」、「SAISON」を原告グループの営業に関連して認識し、これらを通して原告グループを想起するものと認められるから、グループ名称として「セゾン」と略称されることがなくとも、原告商品等表示はいずれも原告グループの商品等表示として広く認識されるようになっているものといって差し支えない。

昭和六三年中の新聞記事中において、見出しあるいは記事中に原告グループを指すものとして「セゾン」のみが使用されている例が少なからずあることは、その当時、「セゾン」あるいは「SAISON」の表示に接した者か、それだけで原告グループあるいは原告グループ各社の商品ないしは営業を想起する状態になっていたことを示すものということができる。

3(一)  被告は、原告商品等表示は、一般名詞にすぎないから識別力が弱く、識別力を得られるほどに使用されてもなお周知性を獲得するに足りない旨主張する。

被告がいう一般名詞とは、ありふれたその意味を何人も解し得る一般的な単語をいうものと解されるが、「SAISON」の語は「四季」あるいは「季節」を意味するフランス語の名詞であり、「セゾン」は右の単語の発音に近い日本語の音韻の片仮名表記であるところ、日本におけるフランス語教育の普及の程度、日常生活において用いられるフランス語あるいはフランス語に由来する外来語の使用状況等に照らすと、近時、さまざまな方面でフランス語が外来語として日本語に定着してきている事実はあるとしても、「SAISON」から「セゾン」の称呼が生じるものとも、「SAISON」あるいは「セゾン」の語に接したときに、直ちに「季節」又は「四季」の観念が生じることが一般的であるとも認められない(「SAISON」の語から一般に「セゾン」の称呼が生じるようになっているとするなら、それは原告商品等表示が広く認識されているからであって、一般にフランス語の知識が普及してその発音が広く認識されたからとは認められない。)。

また、原告商品等表示が被告のいうところの一般名詞であるとしても、それは原告らの営業、役務の提供の時期、あるいは取扱商品、その品質、効能、生産又は使用の時期等を記述する一般名詞ではないから、識別力がないとはいえず、その表示が周知となるために特段の要件が加重されるということにはならない。

(二)  被告は、原告グループのほかに全国に「セゾン」又は「SAISON」を含む営業表示を使用する第三者が多数あるから、それらの営業表示に識別力、顧客誘引力があるとしても、それは多数の第三者に分散して原告グループに集中して帰属しない、あるいは「セゾン」又は「SAISON」が商品等表示としてありふれている旨を主張する。

(1) <書証番号略>によれば、新潟県長岡市に本店をおく越後ステーション開発株式会社(昭和五四年設立、資本金二億八〇〇〇万円)及びその子会社であるセゾン商事株式会社(昭和五五年設立、資本金四〇〇万円)がJR新潟駅、JR長岡駅において経営、管理する駅ビルは、いずれも「セゾン」と称され、ビル正面の壁面、ビル内の公共通路から店舗部分への入口、案内板等目立つ場所に「SAISON」の表示が掲げられていることが認められ、新潟市、長岡市あるいはその周辺地域においては「セゾン」といえばそれらの駅ビルあるいは駅ビル内の商店街の営業を指すという認識も生じているものと推認されるが、それが周辺地域を超えて全国に及んでいるものとはとうてい認められない。

(2) また、<書証番号略>によれば、三菱重工業株式会社が平成四年四月当時「セゾンエアコン」との商標のエアコンを販売し、商品区分旧第九類、パッケージタイプエアコンディショナ等を指定商品とする「SaISON」の文字をデザインした文字からなる商標について商標出願公告を得ていることが認められるが、同社の販売するセゾンエアコンは、店舗用、業務用であって一般消費者向けではなく、セゾンエアコンが同社の店舗用業務用エアコンの商品表示として知られることがあっても、「セゾン」の表示が同社の一般の商品表示、営業表示として周知であることは認められない。

(3) <書証番号略>によれば、① 訴外新日本化学株式会社が商品区分旧第一類、消臭剤外を指定商品として、「セゾン」の文字を横書きにしてなる商標について昭和五七年一一月一一日に、② 訴外の個人が商品区分旧第四類、化粧品外を指定商品として、右同様の商標について昭和六〇年七月一九日に、③ 訴外ミカミ工業株式会社が商品区分旧第七類、金属製建築または構築専用材料外を指定商品として、「SAISON」の文字と「セゾン」の文字を横書きにしたものとを上下二段にしてなる商標について昭和五九年一二月八日に、④ 訴外象印マホービン株式会社が商品区分旧第一一類、電気機械器具外を指定商品として、「SAISON DE FLEUR」の文字を横書きにしてなる商標及び「SAISON」の文字からなる商標について、いずれも昭和五五年八月一八日に、⑤ 訴外日米富士自転車株式会社が商品区分旧第一二類、輸送機械器具外を指定商品として、「セゾン」の文字を横書きにしたものと「SAISON」の文字とを上下二段にしてなる商標について昭和四九年八月二一日に、⑥ 訴外横田株式会社が商品区分旧第一五類、糸を指定商品として、右⑤類似の構成の商標について昭和五七年一一月一七日に、⑦ 訴外株式会社大阪西川が商品区分旧第二二類、はき物外を指定商品として、「AI―SAISON」の文字を横書きにしてなる商標について昭和六一年七月八日に、⑧ 訴外サントリー株式会社が商品区分旧第二八類、酒類を指定商品として、右⑤類似の構成の商標について昭和五五年五月九日に、「セゾン」の文字を横書きにしたものと「Saison」の文字とを上下二段にしてなる商標について同年六月一六日に、⑨ 訴外日清フーズ株式会社が商品区分旧第三一類、調味料外及び旧三二類食肉外をそれぞれ指定商品として、「セゾン」の文字を横書きにしてなる商標について、いずれも昭和四九年九月一三日に、それぞれ商標登録出願をし、商標出願公告を経たことが認められる。

しかし、それらの商標が現実に使用されている事実及びそれぞれの使用者の営業あるいは商品の表示として広く社会に認識されている事実を認めるに足りる証拠はない。

(4) <書証番号略>によれば、前記(1)の二社以外にも全国各地にその商号中に「セゾン」の表示を含む法人等、営業表示に「セゾン」又は「SAISON」を含む営業者が相当数あるが、その大半は平成元年以降に設立されたものであること、それらはほとんどが資本金一〇〇〇万円以下で、資本金二〇〇〇万円のものが数社ある程度であることが認められ、各会社の営業規模は原告グループ各社の営業規模に比較して微々たるものであり、それらの各会社の存在が、原告商品等表示の識別力を減殺するような事情を認めるに足りる証拠はない。

(5) 右(1)ないし(4)のとおりであるから、第三者が「セゾン」を商標、商号あるいは営業表示として使用している事実を全て総合しても、全国規模で営業活動を行う原告グループの商品等表示として原告商品等表示が昭和六三年以前から広く認識されていたとの認定を覆えすことはできない。

もっとも、新潟市、長岡市とその周辺地域においては、前記越後ステーション開発株式会社の経営するJR新潟駅、JR長岡駅の駅ビルあるいはその中の商店街の営業表示の認識との関係で昭和六三年当時は、まだ原告商品表示が原告グループの商品等表示と認識されなかった可能性を否定できないが、そのことから全国のその余の地域で原告商品等表示が原告グループの商品等表示として広く認識されていたことを左右するものではなく、現時点においては、新潟市、長岡市及びその周辺地域においても原告商品等表示が原告グループの商品等表示であることが周知であることを左右するに足りるものではない。

(三)  なお、原告商品等表示が記載されているカタログ、ポスター等に「西武」、「SEIBU」の表示を伴うことが多いとしても、著名な標章である「西武」、「SEIBU」(当裁判所に顕著である。)に関連して原告商品等表示が認識されることは、原告商品等表示が原告グループで慣用されている標章であるとの認識を生むのであるから、原告商品等表示の周知性を強化する方向に作用こそすれ減殺するよう作用するものではない。

<書証番号略>には、被告代表者がしたアンケート調査の結果は前記認定に反するものである旨の記載があるが、右アンケートは調査対象、調査方法がどのようなものであったかを認めるに足りる証拠がなく、調査対象の抽出、調査方法の設定が学問的根拠に基づく適正なものであったか否かの判断すらできず、その内容が信頼できるものであると判断できないから、前記認定の事実を左右するものではない。

三  請求原因3(被告の営業と被告標章)(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。<書証番号略>によれば、被告が、平成三年七月から一二月まで及び平成四年一月頃に被告カタログの宣伝及び販売代理店の募集のため日経流通新聞に掲載した広告に、被告標章(九)、(二)を記載して使用している事実が認められるが、これは後記六3(二)で判断するとおり被告の商品等表示として使用されているものと認められる。

右のほかに被告が被告標章を新聞広告で使用している事実を認めるに足りる証拠はない。

四  請求原因4(原告商品等表示と被告標章の類似性)について

1 被告標章(一)、(三)、(九)の態様は、それぞれ別紙被告標章目録(一)、(三)、(九)のとおりいずれも「GIFT」の文字と「セゾン」の文字を二段に横書きしてなる構成を有し、「セゾン」の部分が被告標章(一)、(三)については行書風の書体で、被告標章(九)についてはデザインされた書体で、いずれも「GIFT」に比較して大きく強調した態様で表記されている。

ところで、「ギフト」という語が、「贈答品」「贈り物」を意味する英語に由来する外来語として日本語に定着していることは当裁判所に顕著な事実であり、それが「GIFT」と英語が記載されていても、現在の日本における英語教育の程度、日常生活における英語の普及等の事情を併せ考えると、これから「ギフト」の称呼が生じ、あるいは贈答品、贈り物との観念を認識するのが一般的であるものと認められる。

他方、「セゾン」という語が、商号、営業表示に相当数使用されているといっても、未だその本来のフランス語の意味で日本語に定着しているとは認められないことは前記のとおりであり、「セゾン」に接した一般人にそれ自体特別の観念を生じさせないから、結局、被告標章(一)、(三)、(九)に接した者は、「セゾンの贈答品」、「セゾンの贈り物」との観念が生じるものと認められる。

するとこの被告標章が、ギフトカタログ(贈答品のカタログ)に付されて使用された場合、「ギフト」の部分から生じる「贈答品」、「贈り物」との観念は、付された商品(カタログ)の性質、内容を一般的に表示しているにすぎない。また、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば「ギフト」又は「GIFT」はギフトカタログにおいて使用されることの多い単語であると認められる。

以上のような事実を考え合わせれば、被告標章(一)、(三)、(九)の「GIFT」の部分に格別の識別力はなく、右被告標章はいずれも「セゾン」の部分が識別力を有するいわゆる要部であると認められる。

そして右被告標章の各文字の書体が特別特徴のあるものでないことからすると、被告標章(一)、(三)、(九)はいずれもその要部が原告商品等表示の中の「セゾン」と外観、称呼、観念の全てにおいて同一であり、全体として原告商品等表示の中の「セゾン」と類似していると認められる。

2  被告標章(二)、(五)の態様は、それぞれ別紙被告標章目録(二)、(五)のとおりであり、被告標章(二)は「GIFT」の文字と「SAISON」の文字を二段に横書きしてなる構成の標章、被告標章(五)は「GIFT」の文字と「SAISON」の文字を両者の間にやや間隔を置いて一段に横書きしてなる構成の標章である。

右被告標章は、前記検討した被告標章(一)、(三)と「セゾン」の部分が「SAISON」と表記されているという相違はあるが、前記1で述べたと同様の理由で、その要部は「SAISON」の部分にあるものと認められる。したがって被告標章(二)、(五)は、いずれもその要部が原告商品等表示のうちの「SAISON」と外観が同一であり、全体として原告商品等表示のうちの「SAISON」と類似しているものと認められる。

3  被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)の態様は、それぞれ別紙被告標章目録(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)のとおりである。被告標章(四)は行書風の書体を用いて「ギフトセゾン」を縦書きに表示したもので、「セゾン」の部分が「ギフト」に比較してやや太い書体で表示された構成からなる。被告標章(一四)はデザインされた片仮名で「ギフトセゾン」と一連に横書きした構成からなる。被告標章(一一)、(一三)、(一五)はいずれも被告標章(一四)と同じ書体を用いており、被告標章(一一)は被告標章(一四)の「ギフト」と「セゾン」の間に僅かの間隔を開けた構成からなるもの、被告標章(一五)は「ギフトセゾン」と一連に縦書きに表示された構成からなるもの、被告標章(一三)は、「ギフトセゾン」の文字が縦書きに表示され「ギフト」と「セゾン」の間に僅かの間隔を開けた構成からなるものである。

右被告標章は、外観上、それぞれ少しずつ異なった構成からなるが、いずれも「ギフトセゾン」と片仮名で表記したものにすぎず特別顕著な特徴を有する態様からなるものではないから、前記1で述べたと同様、その要部はいずれも「セゾン」の部分にあるものと認められる。

したがって右各被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)は、いずれもその要部が原告商品等表示のうちの「セゾン」と外観、称呼、観念のいずれにおいても同一であるから、全体として原告商品等表示のうちの「セゾン」と類似しているものと認められる。

4  被告標章(六)の態様は、別紙被告標章目録(六)のとおりであり、「GIFTセゾン」と「SAIS◎N」を二段に横書きしてなる構成であり、下段の「SAIS◎N」の部分は、上段の「GIFTセゾン」に比較してかなり大きく記載されている。

前記1で述べたと同様、「GIFT」の部分が識別力を有する部分ではなく、また上段の「GIFTセゾン」は下段の「SAIS◎N」に小さく添えて付された程度の印象しか与えないものであるから、本標章の要部は下段の「SAIS◎N」の部分にあるものと認められる。

なお、被告標章(六)の「SAIS◎N」の字体は、原告商品等表示の「SAIS◎N」と異なるが、本来「O」と記される部分を「◎」とした点に顕著な特徴があり、この字体の僅かな相異があってもその顕著な特徴が失われることはなく、被告標章(六)の要部の「SAIS◎N」は原告商品等表示のうちの「SAIS◎N」と外観において実質上同一である。

したがって被告標章(六)は、その要部が原告商品等表示のうちの「SAIS◎N」と実質上同一であるから、全体として原告商品等表示のうちの「SAIS◎N」と類似しているものと認められる。

5  被告標章(七)の態様は、別紙被告標章目録(七)のとおりであり、「GIFT SAIS◎N」と「セゾン」を二段に横書きしてなる構成であり、下段の「セゾン」の部分は、上段の「GIFT SAIS◎N」に比較してかなり大きく記載されている。

前記判断した被告標章(六)とは、「セゾン」と「SAIS◎N」の位置が逆となっており、その要部は下段の「セゾン」にあると認められるが、上段の特徴のある「SAIS◎N」と相俟って、被告標章(七)は原告商品等表示の中の「セゾン」と外観、称呼、観念を共通するものであり、全体として原告商品等表示の中の「セゾン」と類似しているものと認められる。

6  被告標章(八)の態様は、別紙被告標章目録(八)のとおりであり、日本における英語教育あるいは普及の程度等の事情を斟酌すれば、「SAIS◎N」の前に付された「By」は、「〜による(動作の主体を表す)」等の意味を有する英語の前置詞で「バイ」と発音することが一般に知られているものと認められるから、被告標章(八)は、全体として「SAIS◎Nによる」という観念を生じさせるものであり、「SAIS◎N」部分が要部となるものと認められる。

したがって、被告標章(八)は、その要部が原告商品等表示の中の「SAIS◎N」と実質的に同一であるものであり、全体として原告商品等表示の中の「SAIS◎N」と類似しているものと認められる。

7  被告標章(一〇)の態様は、別紙被告標章目録(一〇)のとおりであり、「ギフト」、「セゾン」、「SAIS◎N」の文字を一段に横書きし、左側の「ギフト」を一段と小さな文字とし、中央の「セゾン」と右側の「SAIS◎N」の間に間隔を設けてなるものである。

右のような構成からすると、被告標章(一〇)の要部が「セゾン」及び「SAIS◎N」にあることは明らかである。

したがって、被告標章(一〇)は、その要部が原告商品等表示の「セゾン」又は「SAIS◎N」と実質的に同一であるから、全体として原告商品等表示の中の「セゾン」又は「SAIS◎N」と類似しているものと認められる。

8  被告標章(一二)の態様は、別紙被告標章目録(一二)のとおりであり、「GIFT SAISON」中、「O」の字の中心の空白部をハート型とし、さらにそれに右斜め上の背後から左斜め下の手前に貫ぬく矢の図柄が付加されてなるものである。

右の特徴を有する「O」の字体は、それが単体で示された場合には、一般人にとって直ちに欧文字の「O」と認識できるものとは認められないが、欧文字を連ねた単語の中で用いる場合には、一般人にもそれが「O」をデザインしたものであることは容易に認識できるから、被告標章(一二)は全体として「GIFT SAISON」を横書きにしたものと一般人にも認識される。そして1と同様の理由により「GIFT」の部分には格別の識別力はないものと認められるから、被告標章(一二)の要部はOをデザイン化した「SAISN」の部分であると認定することができる。被告標章(一二)の要部と原告商品等の中の「SAIS◎N」とは外観が類似するものと認められるから、被告標章(一二)は全体として原告商品等表示の中の「SAIS◎N」と類似しているものと認められる。

9  被告は、ギフトカタログでは「〜ギフト」あるいは「〜ギフトカタログ」として、「ギフト」が末尾につくのが通常であるのに対し、被告標章はこれと異なり、ギフトが頭初につくから、通常のギフトカタログの名称と異なり、「ギフトセゾン」という一体となった独特の観念を生じる旨主張する。

<書証番号略>によれば、百貨店、食品業等のギフトカタログにおいては、「〜ギフト」あるいは「〜ギフトカタログ」として、「ギフト」の語が識別力を担う要部の後に付される例があることが認められる。

しかし、前記1に判断したとおり「ギフト」は、「贈答品」、「贈り物」との意味が一般に理解される平易な外来語であり、それがギフトカタログ(贈答品カタログ)に用いられた場合、付された商品の性質、内容を表示しているものと解され、各被告標章の構成を合わせ考えれば、各被告標章において「ギフトセゾン」、「GIFT SAISON」あるいは「GIFT セゾン」等の全体が要部となるものとは認められない。被告の主張は失当である。

五  請求原因5(混同のおそれ)について

1  前記三記載の当事者間に争いがない被告の営業態様、すなわち①新聞広告等で小売店等の取引先を募集し、応募してきた小売店等にギフトカタログを販売し、②右小売店等が、ギフトカタログを店先等に配置しあるいは顧客方へ持参して顧客に示し、それを見た顧客が右小売店等を通じてカタログ記載の商品を申し込み、その商品が右小売店等を通じて顧客に届けられるという形態の営業態様において、前記したような原告商品等表示に類似した各被告標章をそのギフトカタログに付して使用した場合、原告商品等表示の周知性のほか、原告グループ各社の営業が広範囲にわたっていることからすると、①の営業の場面では、カタログを購入しようとする小売業者が、被告カタログが原告グループの発行にかかるもの、あるいはそのような被告カタログを取り扱う被告が原告グループに関連する者であるとの誤認混同を生じ、②の営業の場面では、被告カタログを見て商品購入を決定し購入する顧客は、その商品の販売行為が直接取引している小売店等の営業であるのみではなく、被告カタログの発行元の営業でもあると認識するから、被告カタログに付された被告標章を見てカタログ記載の商品が原告グループの取扱いにかかるものであると誤認し、あるいは被告カタログの発行元を正しく被告と認識したとしても、被告が原告グループの関連会社であるかのように認識する誤認混同が生じるものと認められる。

2(一)  被告の営業形態は、小売店等を介在させる点に特徴があるが、カタログによって商品を選択し購入するという点では通常の通信販売と類似性があり、また原告グループ各社がする営業範囲が広範囲に及んでいることからすると、右程度の営業形態の相違をもって、原告商品等表示と類似の被告標章を用いてする被告の営業が原告らの営業と混同を生ずるおそれがないとはいえない。

(二)  <書証番号略>によれば、被告カタログを購入するためには、被告に申込み、販売代理店契約を締結するなどの手続を経るものと認められるから、被告カタログを購入する者は、当然、被告カタログの発行元が被告であることを認識しているものと認められるが、前記認定のとおり、原告らグループにも「セゾン」をその商号に含まない会社もあり、前記<書証番号略>によれば、被告は、その販売代理店の募集広告中に脱サラ希望者、あらゆる小売業との兼業も歓迎する旨をうたっていることが認められ、被告と契約を締結してカタログを購入し当該カタログに基づく販売業を行う者の中には脱サラ希望者や零細業者等も含まれ、全てが充分な知識と調査能力を有している専門業者とはいえないから、被告が原告らグループの加盟会社であるとの混同が生じるおそれがないとは必ずしもいえない。

(三)  <書証番号略>によれば被告カタログ(三)、(四)の裏表紙の右下隅に小さく「発行…東邦物産(株)」との記載があることが認められるが、このような目立たない表示があるからといって販売代理店の店頭等で被告カタログを見て商品を選択する消費者にその発行元を十分認識させるには十分でないし、<書証番号略>によれば、被告カタログ(一)、(二)には被告カタログの発行元が被告であることを認識させる記載はないことが認められる。

また一般消費者が被告カタログを見て商品を選択し注文する場合において、被告カタログ(三)、(四)に記載された被告の商号によって被告をカタログの発行元と認識できたとしても、前記(二)と同様の事情から被告の営業と原告らの営業に混同が生じるおそれがないということはできない。

3  <書証番号略>によれば、被告の販売代理店が、自らが被告と原告グループの関係を誤認していない旨、そして消費者からも被告カタログ記載の商品が原告グループの扱う商品であるかどうか等の質問を受けたことはない旨の記載のある証明書を作成していることが認められるが、それらの販売代理店が被告の販売代理店すべてであることを認めるに足りる証拠はないのみか、将来販売代理店となる者が被告の営業と原告らの営業とを混同するおそれ、販売代理店の顧客となる消費者が同様の混同をするおそれを否定するものとはいえない。

六  抗弁(商標権の行使又はそれに準ずるものとしての、被告標章(二)、(四)、(五)、(一一)ないし(一五)の使用について)

1  抗弁1中、被告が被告登録商標を有し、被告登録商標の連合商標として被告出願商標(一)、(二)を出願中であり、被告出願商標(一)が既に出願公告されていることは当事者間に争いがない。

2  被告は、被告標章(二)、(五)については被告出願商標(一)の、被告標章(一二)については被告出願商標(二)の権利行使に準じるものと主張する。

しかし、商標権は設定の登録により発生するから、出願中の被告出願商標(一)、(二)について権利行使はあり得ない。

被告登録商標の連合商標として出願された被告出願商標(一)については、既に出願公告がされているが、出願公告には権利を発生させる効力はないし、また連合商標は既登録の商標の禁止権の範囲には抵触するが使用権の範囲には含まれない商標であるから、連合される被告登録商標が既登録であるからといって、被告出願商標(一)について登録商標による権利の行使に準じて取り扱いを認めることができない。

被告出願商標(一)、(二)についての権利行使としての被告標章(二)、(四)、(五)、(一二)の使用ないしはそれに準じた取扱いをいう被告の主張は理由がない。

3  被告登録商標に基づく権利行使をいう被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)について検討する。

(一)  被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)は、いずれも「ギフトセゾン」の六文字の片仮名からなるもので、称呼及び観念は被告登録商標と同一であるが、その書体及び記載態様が少しずつ異なっている。

すなわち被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)の態様は、それぞれ別紙被告標章目録(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)のとおりであり、被告標章(四)は行書風の書体を用いて「ギフトセゾン」を縦書きに表示したもので「セゾン」の部分が「ギフト」に比較してやや太い書体で表示された構成からなるもの、被告標章(一四)はデザインされた片仮名で「ギフトセゾン」を一連に横書きした構成からなるもの、被告標章(一一)、(一三)、(一五)はいずれも被告標章(一四)と同じ書体を用いて、被告標章(一一)は被告標章(一四)の「ギフト」と「セゾン」の間に僅かの間隔を開けた構成からなるもの、被告標章(一五)は被告標章(一四)が縦書表記された構成からなるもの、被告標章(一三)は被告標章(一四)が縦書表記され「ギフト」と「セゾン」の間に僅かの間隔を開けた構成からなるものである。

しかしながら、右各被告標章に使用された書体は、いずれも特段の顕著性があるものではないから被告登録商標と実質的に同一であるといって差し支えないし、それが縦書表記され、「ギフト」と「セゾン」の間に僅かに間隔を開けられ、あるいは「ギフト」と「セゾン」で字体の太さに僅かな差が設けられたとしても、いずれもありふれた片仮名の表示態様の変更にすぎないから、商標の識別性に影響を与えるものとは認められない。

したがって、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)は、被告登録商標と称呼及び観念を共通にし、外観の差は識別性に影響を当たるような表示態様の変更とまで認められないから、両者は社会的同一性があるものということができる。

以上によれば、被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を、被告登録商標の指定商品に含まれる印刷物であるギフトカタログに付して使用する行為は、いずれも被告登録商標を使用する行為であると認められる。(ただし、被告登録商標が登録された平成三年一一月二九日前にも使用されていた被告標章(四)については、それ以前の期間について商標法による権利の行使ということはできない。)

(二)  原告は、①新聞広告における被告標章の使用、②被告の販売代理店が被告カタログを使用して商品の注文を受ける等の行為における被告標章の使用行為は、いずれも商標権の行使の範囲を超えている旨主張する。

<書証番号略>によれば、被告は、日経流通新聞において、前記三で認定したとおり被告標章(一一)を使用した宣伝広告をしている事実が認められるが、右は被告カタログを使用してする販売代理店の募集広告であるとともに、被告カタログ自体の宣伝広告でもあるから、右記態様で新聞広告をする①の行為は「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」(商標法二条一項七号)に該当する商標の使用であって、商標権の行使であると認められる。なおその外に被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)が、新聞広告等に使用されている事実を認めるに足りる証拠はない。

また、<書証番号略>によれば、被告標章(一一)、(一四)がそれぞれの被告カタログの表紙上段に大きく目立つように記載され、被告標章(四)、(一三)、(一五)がそれぞれの被告カタログの背表紙に目立つような態様で記載されていることが認められる。右各被告標章が、被告カタログをみて掲載商品を選択し注文する消費者に対する関係において、各種の掲載商品の供給主体としての被告の営業表示として機能している側面があることは否めないが、印刷物である被告カタログに右各被告標章を右の態様で付す行為は、標章を商標として使用する典型的行為であり、被告登録商標についての商標権の行使であることは明らかである。

(三) 被告標章(四)、(一一)、(一三)ないし(一五)を使用する行為は、被告登録商標を使用する行為であるが、被告登録商標にかかる商標登録には無効とすべき事由があるとされる蓋然性が極めて大きいから、本件において被告の右各被告標章の使用が適法な商標権の行使として、不正競争行為に該当しないものと認めることはできない。

すなわち、被告登録商標出願時である昭和六三年一二月当時、すでに「セゾン」が、消費者、需要者の間で原告グループの営業及び商品を示すものとして取引者、消費者に広く認識されていたことは前記二で認定したとおりであり、その状態は被告登録商標が登録された平成三年一一月二九日はもとより、現在においても維持され、右認識の程度はより深まっているものと認められることは、前記二1で認定したとおりである。

ところで、被告登録商標は、原告商品等表示の中の「セゾン」をその構成の一部とするものであるが、我が国において、遅くとも被告登録商標の登録出願時までに、原告グループ及びその各社の商品及び営業を表す標章として原告商品等表示が需要者及び取引関係者の間に広く認識されていたものと認められるから、需要者及び取引関係者が被告登録商標に接すれば、被告登録商標と原告商品等表示の構成に相違があっても、前記のとおり「ギフト」がギフトカタログ(贈答品カタログ)に使用される贈り物、贈答品を意味することから、被告登録商標の中の「セゾン」の部分に着目して原告商品等表示を想記するか、あるいは被告登録商標を一体のものと観察しても、原告商品等表示を想起して、原告グループの関連会社の発行にかかるギフトカタログを意味するものと理解するものと認められる。

したがって、被告が、被告登録商標を、指定商品の中の印刷物であるギフトカタログに使用した場合には、原告商品等表示が付されたものと出所の混同が生じるおそれがあると認められ、被告登録商標には、商標法四条一項一五号所定の事由があるものとして、その登録は同法四六条一項一号の規定によって無効とされる蓋然性が極めて大きいものと認められる。

(四) 被告は、平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法六条の規定が、商標権の行使であることを不正競争を理由とする請求に対する抗弁としていたところ、右改正後の現行の不正競争防止法には右のような限定はないけれども、平成五年法律第四七号附則二条の規定により、旧法下で開始された商標権の使用行為には不正競争防止法が適用されないとして、被告登録商標についての商標権の行使であることを不正競争防止法に基づく請求に対する抗弁として主張する。

しかし、仮に被告主張のとおり、旧法施行当時に旧法六条の規定によって、同条所定の旧法の条項が適用されない法律関係にあったことが平成五年法律第四七号附則二条所定の「改正前の不正競争防止法……によって生じた効力」に該当するとしても、前記のとおりその被告登録商標の商標登録には無効とされるべき事由があるから、不正競争行為に対する抗弁として、右のような瑕疵がある商標権の行使行為であると主張することは権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。

したがって、被告登録商標に基づく権利行使の抗弁は、旧法施行当時に旧法六条の規定によって、同条所定の旧法の条項が適用されない法律関係にあったことが平成五年法律第四七号附則二条所定の「改正前の不正競争防止法……によって生じた効力」に該当し、現行法下でも抗弁とすることができるか否かを検討するまでもなく、理由がない。

なお、右のように判断することは、被告登録商標の商標登録に無効事由があることを、商標権の行使であると主張することが権利の濫用であると判断する重要な要素とするものであるが、右商標登録が無効であると判断するものではない。

七  差止請求権について

以上によれば、被告が、被告カタログに被告標章を付して、前記三認定の請求原因3(一)の①、②の営業を営む行為は、いずれも不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為にあたるから、被告の営業に類似する通信販売事業を営む原告らがこれにより営業の利益を侵害されるおそれがあることは明らかである。

被告が、現在、各被告標章を使用していることを認めるに足りる証拠はないが、本件訴訟の経過、不正競争行為に当たることを争う被告の態度等、諸般の事情に照らし、被告が将来とも被告各標章を使用して同様の行為に及ぶおそれがあるものと認められる。

したがって、原告の請求中、被告の通信販売及びカタログによる商品販売についての営業に関し、又はその販売若しくは使用するカタログ及びパンフレットに、被告標章(一)ないし(一五)を使用すること並びに被告が、被告標章(一)ないし(一五)を付したカタログ及びパンフレットを頒布することの差止請求、被告標章(一)ないし(一五)を付したカタログ及びパンフレットの廃棄請求は、いずれも理由がある。

更に、被告が、カタログ発行ごとに「ギフト」又は「GIFT」と「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」との組合わせにより被告標章の態様を順次変更してきたことに照らすと、被告がさらに右標章の組み合わせにかかる標章を使用するおそれがないとはいえず、また右組み合わせにかかる標章はいずれも「セゾン」、「SAISON」又は「SAIS◎N」が要部となって原告商品等表示に類似するものと認められるから、原告らが各被告標章目録記載の被告標章の具体的構成に限定せず、広く右組み合わせにかかる標章の使用の差止めを求める請求にも理由があるものということができる。

八  請求原因七(過失)について

被告が流通業に携わる者であり、被告カタログ(一)を利用した営業を開始した当時既に原告商品等表示が著名であったことなどの事情に照らせば、被告は、前記被告カタログ(一)ないし(四)を用いた営業をして不正競争防止法二条一項一号に該当する行為をすることについて少なくとも過失があったものと認められる。

被告は、右行為により原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。

九  請求原因八(損害)について

1  被告カタログの販売による損害について

(一)  <書証番号略>によれば、被告カタログ(一)及び(三)には裏表紙右下隅に「定価一、五〇〇円(消費税別)」と記載されていることが認められるが、他方、<書証番号略>によれば、被告カタログは必ずしも右定価で販売されておらず、一〇〇部未満のときは一冊あたり一〇〇〇円、一〇〇部以上三〇〇部未満のときは一冊あたり九〇〇円というように購入冊数によってその販売価格が異なっていることが認められる。

各被告カタログの販売冊数は、被告カタログ(一)について一万部、被告カタログ(三)について五〇〇〇部、被告カタログ(四)について五〇〇〇部であることは当事者間に争いがないところ、<書証番号略>によれば、被告の販売代理店として被告カタログを購入する者の数は一四一を下らないものと認められること、前記認定の被告カタログを用いての営業態様に照らし販売代理店は被告カタログを備付けて顧客に見せるものであることなどからすると、各販売代理店の被告カタログの購入数は各カタログごとに一〇〇部を超えるものではないと推認される。

したがって、被告は、各被告カタログ(一)、(三)及び(四)をそれぞれ一〇〇〇円で販売したものと認めるのが相当であるから、被告カタログ(一)の合計販売額は一〇〇〇万円、被告カタログ(三)の合計販売額は五〇〇万円、被告カタログ(四)の販売額は五〇〇万円と認められる。

なお<書証番号略>によれば、被告代表者が、被告カタログを三〇〇円ないし六〇〇円で販売しその販売価格の平均は四五〇円前後である旨述べている事実が認められるが、そのことは取引書類又は帳簿類を書証として提出して裏付けられていないし、またカタログ販売に伴う実施料相当の損害金を判断するためには、取引上個別の値段交渉により値引きされる場合があるとしても、販売定価を基準として判断するのが相当であるから、本件においては、前記判断したとおり一冊あたり一〇〇〇円の販売価格を前提としてその実施料相当額を判断すべきである。

(二)  しかし、被告カタログの原価又は被告カタログの販売による利益率を認定するに足りる証拠はないから、被告が、被告カタログを販売することにより受けた利益を的確に認めることはできない。

(三)  原告西武が、被告がした被告カタロダ(一)、(三)及び(四)の販売行為について通常受けるべき金銭の額を検討すると、原告商品等表示が周知のみならず著名ともいうことができることは前記のとおりであるが、被告各カタログは、そのカタログ自身の商品性に価値があるのではなくその掲載商品を販売する手段的機能を営むにすぎないと考えられること、被告標章はいずれも原告商品等表示と類似するが同一ではないこと等の事情を総合すると、被告カタログの販売額の五パーセントをもって、原告西武が通常受けるべき金銭の額であると認定するのが相当である。

したがって、被告カタログの販売による損害についての原告西武の請求は、被告に対し、被告カタログ(一)の販売について五〇万円、被告カタログ(三)の販売について二五万円、被告カタログ(四)の販売について二五万円の合計一〇〇万円の限度で理由があるが、これを超える部分は理由がない。

(四)  原告西武は、被告カタログ(一)、(三)及び(四)の販売による損害賠償金について、訴状が送達された日の翌日である平成五年九月二五日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付加して請求しているが、被告カタログ(一)及び(三)の販売に起因する損害が平成五年九月二五日以前に発生したものであることは明らかであるが、被告カタログ(四)の販売に起因する損害がそれ以前に全て発生したものと認めるに足りる証拠はなく、また右損害に関して平成五年九月二五日を基準としてそれ以前に発生した損害とその後に発生した損害を区分して認定するに足りる証拠はない。

したがって、被告カタログ(四)の販売に起因して生じた損害賠償請求権については、その全額が発生したことが明らかな同年末をもって遅滞に陥ったものと認定するのが相当である。

2  被告カタログ掲載商品の販売による損害について

(一)  被告カタログ(一)及び(二)による平成三年中のカタログ掲載商品の販売額の合計は一億九八九二万二五七六円であること、被告カタログ(三)による平成四年中のカタログ掲載商品の販売額は八九五六万〇〇五二円であること、被告カタログ(四)による平成五年中のカタログ掲載商品の販売額は八八八三万二七七五円であることは当事者間に争いがない。

(二)  しかし、被告カタログ掲載の商品についての被告の仕入れ原価、販売経費又はそれらの商品販売の利益率を認定するに足りる証拠はないから、被告が、各被告カタログを用いた商品販売により受けた利益を的確に認定することはできない。

(三)  被告が被告カタログ(一)ないし(四)に基づいてカタログ掲載商品を販売した行為について原告らが通常受けるべき金銭の額を検討すると、被告カタログの販売行為についてみた前記事実のほかに、被告カタログに掲載されている商品自体に被告標章が付されているのではないこと、被告の商品販売形態は販売代理店を媒介するものであるから消費者はカタログの発行元のみならず直接に接している被告の販売代理店の信用も重視するであろうと考えられることからすると、被告カタログ掲載商品の販売額の一パーセントをもって原告らが通常受けるべき金銭の額であると認定するのが相当である。

そして原告らはいずれも被告と競業する通信販売業を営んでいるものであるから、それぞれその二分の一を受けた損害の額と認定するのが相当である。

したがって、被告カタログ掲載商品の販売による損害についての原告らの請求は、被告に対し、各自が、被告カタログ(一)及び(二)に基づくカタログ掲載商品販売行為について九九万四六一二円、被告カタログ(三)に基づくカタログ掲載商品販売行為について四四万七八〇〇円、被告カタログ(四)に基づくカタログ掲載商品販売行為について四四万四一六三円の合計一八八万六五七五円の限度で理由があるが、これを超える部分は理由がない。

(四)  なお、前記被告カタログの販売による損害についての遅延損害金発生の起算日についてみたと同様に、被告カタログ(一)ないし(三)に基づくカタログ掲載商品販売に起因して発生した損害について平成五年九月二五日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める請求には理由があるが、被告カタログ(四)に基づくカタログ掲載商品販売に起因して発生した損害についてはこれが全額平成五年九月二五日以前に発生したとも、また右を基準としてそれ以前と後の発生損害額を認定するに足りる証拠がない。

したがって、被告カタログ(四)に基づくカタログ掲載商品販売に起因して生じた損害賠償債務については、その全額が発生したことが明らかな同年末をもって遅滞に陥ったものと認定するのが相当である。

3  弁護士費用相当の損害について

本件訴訟の性質、立証活動及び弁論の経過等弁論にあらわれた諸般の事情並びに原告らの被告標章の使用に対する差止請求が全て認容された事情等を総合すれば、原告西武について一五〇万円、原告セゾンダイレクトについて一三〇万円をもって、被告の行為と相当因果関係がある原告らが被った弁護士費用相当の損害額であると認定するのが相当である。

4(一)  なお<書証番号略>並びに前記当事者間に争いがない被告登録商標、被告出願商標(一)、(二)に関する事実を総合すると、被告は、弁理士をして商標調査のうえ被告登録商標を昭和六三年一二月二二日に登録出願をし、さらに被告出願商標(一)、(二)を登録出願し、被告登録商標は登録され、被告出願商標(一)は出願公告されたこと、さらに被告登録商標に対する無効審判請求事件は特許庁において原告西武の請求が成り立たないと判断されていること等の事実が認められ、これらの事情からすれば、被告が被告カタログを使用した営業をするにあたって被告標章が原告商品等表示に類似せず、あるいは適法に使用できると考えたことに、それなりの理由があったかのようにも見える。

(二)  しかし、前記のとおり被告登録商標の商標登録は無効とされるべき事由を有しているのであるし、被告は、被告登録商標が登録される以前に被告カタログ(一)及び(二)を用いた営業を開始しており、また被告カタログ(一)には被告登録商標の使用と認められる被告標章(四)あるいは被告出願商標(一)と社会通念上同一性があると認められる被告標章(二)、(五)が使用されているが、カタログ表紙に一番大きく目に付く態様で記載されている被告標章(一)はいずれとも同一性がない標章であるし、被告カタログ(二)に使用されている被告標章(六)ないし(一〇)はいずれも被告登録商標とも被告出願商標(一)とも社会通念上同一性があるとはいえない。

したがって被告カタログ(一)及び(二)についての不正競争に基づく損害賠償の額を定めるにあたって、前記した被告登録商標に関する事実を斟酌するのは相当ではない。

また被告登録商標が登録された後使用された被告カタログ(三)及び(四)に付されている主たる標章は、被告標章(一一)、(一三)ないし(一五)であって、これら標章は前記したとおり被告登録商標の使用といえるが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告らは被告を債務者として大阪地方裁判所において被告カタログ(一)及び(二)について使用する被告標章の使用の差止を求める仮処分を平成三年一〇月二一日に申し立てており、そのため被告は被告標章(一)ないし(一〇)の使用をやめ、被告登録商標の使用権の範囲内であることがより明らかな被告標章を主として使用し始めたものと認められるが、あわせて出願したものの出願公告すらされていない原告商品等表示に類似ずる被告出願商標(二)をも被告カタログ(三)及び(四)に使用しているのであるから、これらの事情を考慮するならば、被告カタログ(三)及び(四)についての不正競争に基づく損害賠償の額を定めるにあたって、前記した被告登録商標に関する事実を斟酌するのは相当ではない。

5  よって、原告西武の損害賠償請求は、右1(三)の合計一〇〇万円、2(三)の合計一八八万六五七五円、3の一五〇万円の総計四三八万六五七五円及び内金三六九万二四一二円については平成五年九月二五日から、内金六九万四一六三円(1(三)及び2(三)の被告カタログ(四)にかかるもの)については平成五年一二月三一日から、各支払い済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、これを超える部分は理由がなぐ、原告セゾンダイレクトの損害賠償請求は、右2(三)の合計一八八万六五七五円、3の一三〇万円の総計三一八万六五七五円及び内金二七四万二四一二円については平成五年九月二五日から、内金四四万四一六三円(2(三)の被告カタログ(四)にかかるもの)については平成五年一二月三一日から、各支払い済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、これを超える部分は理由がない。

一〇  以上のとおりであるから、原告らの請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官髙部眞規子 裁判官森崎英二は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官西田美昭)

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